本申請研究は、分裂組織における増殖能力がどのようにして長期間維持されるかをテロメアの機能維持に関する分子機構と関連付けて理解することを目的とする。平成12年度の研究成果は以下の通りである。 1.シロイヌナズナにおけるテロメラーゼ逆転写酵素遺伝子(AtTERT)の発現部位をin situ hybridization法により解析した結果、cdc2a遺伝子と同様に、茎頂分裂組織の中で最も増殖の活発な表層部位で発現が認められた。このことから、テロメラーゼ活性が分裂組織における細胞増殖の維持に不可欠であると推察された。 2.テロメラーゼ活性の発現と分裂組織の維持との関連を実験的に立証するために、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターの制御下でAtTERT遺伝子のセンス鎖またはアンチセンス鎖が転写されるような組み換え植物体を作出した。これらの組み換え体を用いて、茎頂分裂組織の形態やテロメア長の変動等を検討する。 3.単子葉植物であるイネのテロメラーゼ活性は、シロイヌナズナと同様に頂端分裂組織に局在したが、本研究で同定したTERT相同遺伝子(OsTERT)の転写量は、AtTERTのそれと異なり植物体の主要器官でほぼ同等であった。従って、イネのテロメラーゼ活性は、OsTERT遺伝子の転写調節以外の機構で制御されると考えられた。 4.DNA損傷に対する細胞周期のチェックポイント機構とともにテロメア長の調節機構に関与すると予想されるシロイヌナズナのAtrad17遺伝子について、そのコード領域にT-DNAが挿入されたラインを選抜した。このノックアウトラインを用いて、茎頂分裂組織におけるテロメア長の変動およびDNA傷害因子に対する感受性等を解析することにより、細胞増殖の制御機能とテロメアの維持機能との関連について検討する。
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