我々はキイロショウジョウバエの翅をモデル系として形態形成機構を調べている。翅パターン形成ではTGF-βfamilyに属するシグナル分子decapentaplegic(dpp)が重要な役割を演じている。そのメカニズムを調べるため、dppにより誘導される遺伝子dad(daughters against dpp)を単離し、dppシグナルに負のフィードバック制御が含まれることを明らかにした。独立した2系統のdad変異株は成長が遅く、翅成虫原基が肥大し、dpp活性の指標も野生株より広範囲で観察され、dpp活性の亢進により異常が観察されたと考えられる。しかし、成虫翅の大きさは野生株とほぼ等しく、成虫原基での肥大を修正する未知のサイズ制御機構が存在することを示唆している。一方、dad変異株の翅成虫原基では過剰の細胞死が観察され、その細胞死はdppシグナルにより誘導されることを観察した。同領域で細胞死関連遺伝子として知られるreaperが誘導されることも観察した。我々はおそらく新たな制御機構の一部に細胞死が関与するのではないかと予想している。細胞死抑制効果をもつウイルス由来のp35およびdiap遺伝子の機能獲得型を過剰発現、また細胞死関連遺伝子の欠失変異を導入しその効果を観察したが、若干の効果が認められるものの完全には復帰できなかった。おそらく未知の細胞死関連遺伝子が関与すると考え、dad変異株を用いた探索を行い、dadと強く相互作用する致死変異系統を独立して3系統樹立した。遺伝子配列解析より、GTP結合ドメインを有する新規遺伝子と考えられ、変異株ではスプライシングの異常やGTP結合ドメインに変異が見いだされた。当該遺伝子の変異クローンを作製したところ、体毛の欠失や重複が観察された。現在新規遺伝子のdadとの関連、および細胞死への関与を調べている。
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