四肢筋前駆細胞は体節から肢芽への移動前に既に筋に運命づけられているが、筋分化制御因子群の発現解析から四肢筋分化は体幹骨格筋のそれと比較して約2日遅延することが示されている。筋分化制御因子の発現抑制を介し筋分化遅延を引き起こす因子が、四肢特異的に存在すると考えられる。四肢筋形成過程においてHoxa AbdB遺伝子群は、肢芽に移入した筋形成細胞特異的に筋分化に先立ち時・空間的特異性を持って発現する。Hox遺伝子群の筋分化への関与を検討するため、Hoxa-11及びHoxa-13の強制発現実験をニワトリ四肢筋前駆細胞について行い、筋分化制御因子の発現に与える影響を解析した。 Hoxa-11、Hoxa-13の強制発現により筋分化制御因子であるMyf-5、Pax-3の発現に変化は認められなかったが、Myf-5、Pax-3により転写の活性化を受けるMyoDの発現が抑制された。これに伴い筋線維の減少(分化遅延)や一部の筋の形成不全が認められた。また構成的にMyoDを発現している筋芽細胞系株細胞、C2C12にHoxa-11/-13を強制発現すると、内在性MyoDの発現抑制が認められた。四肢におけるMyoDとHoxa-11/-13の発現領域の詳細な比較より、MyoDとこれらHox遺伝子の発現は必ずしも排他的ではなく一部で重複することが明らかになった。これらを考え合わせると1)筋形成細胞においてHoxa-11、Hoxa-13は、MyoDの発現を抑制できる、2)MyoDの発現時期及び領域は活性化因子(Myf-5、Pax-3など)と抑制化因子であるHoxの量的なバランスにより制御されている、ことが示唆された。発生過程においてHox遺伝子群はMyoD発現の負の制御を介して筋形成細胞の増殖分化を調節し、四肢における筋芽細胞集団や個々の筋のサイズ・形態をコントロールしていると考えられる。
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