1)ツメガエル(以下、ゼノパス)卵チロシンキナーゼXykの分子生物学的解析:神戸大学バイオシグナル研究センターの吉野博士との共同により、精製したXykの質量分析実験を行った。その結果、XykはゼノパスSrc遺伝子産物(Src1、Src2)の混合物であることが明らかになった。そこで、Src1/Src2遺伝子のクローニングを行い、野生型、活性化型、及び不活性化型遺伝子の構築を完了した。さらにXykのアミノ酸配列をもとに合成したペプチドを抗原に、抗体を2種類作成した。抗体はウエスタン法、免疫沈降法の両方でXykに高い特異性と結合性を示した。今後はXykの卵細胞での過剰発現実験を基にして、受精成立におけるXykの必要十分性について検証する。 2)受精依存的チロシンリン酸化の可視化:抗リン酸化チロシン抗体を使った免疫組織化学的手法により、動物極側表層の一部が受精卵におけるチロシンリン酸化の場であることを見い出した。このリン酸化反応の極性は、精子と卵の結合が動物極に限られることと一致している。このような極性をもったチロシンリン酸化は、過酸化水素処理を受けた卵でより顕著に見られた。この知見から、過酸化水素処理が卵におけるチロシンリン酸化の解析モデル系として有用であることが示された。 3)受精成立に関与する細胞膜マイクロドメインの生化学的解析:ゼノパス卵より低密度界面活性剤不溶性の膜画分(LD-DIM)を調製した。LD-DIMはコレステロールやGM1ガングリオシドに富むいわゆる「ラフト」的性質を持ち、Xykを含み、受精時のチロシンリン酸化の場であることがわかった。LD-DIMからコレステロールを除去する薬剤処理を行うと受精阻害がおこった。このことは、LD-DIMの機能が受精成立に必要であることを示唆している。今後はLD-DIMの網羅的な蛋白質同定と受精シグナル伝達の再構成実験を行う。
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