ヘパラン硫酸の各部位の硫酸化は、各硫酸基転移酵素(N、2-O、6-O、3-O-硫酸基転移酵素)により触媒され、この糖鎖と様々なタンパク質との結合の特異性を制御している。しかし個体発生におけるこれらの硫酸基転移酵素酵素の機能やその作用機構に関しては、多くの点が不明である。本研究では、これまで同定されていなかったショウジョウバエ6-O-硫酸基転移酵素(dHS6ST)に注目し、この全長cDNAを単離した。dHS6ST推定アミノ酸配列は、これまでに単離されたヒトやマウスのHS6STと高い相同性を示した。本遺伝子の酵素活性を解析するために、dHS6ST cDNAをCOS-7細胞に導入し発現を誘導した。得られた組換体dHS6STはN硫酸化ヘパリンに対し特に強い活性を示し、その反応生成物の構造解析からNスルホグルコサミンの6-O位を硫酸化することが明らかになった。また、RNA in situ hybridization法により、dHS6ST mRNAは胚の気管系前駆体細胞で特異的に発現することが示された。この発現パターンは、FGF受容体をコードするbreathless(btl)の遺伝子の発現と類似している。dHS6ST遺伝子の機能を調べるために、二本鎖RNA(dsRNA)を初期胚に注入し機能阻害実験をおこなった。その結果、ほとんどの胚は致死になり、その大部分の個体において気管系のブランチ形成の異常が観察された。この表現型はbtl突然変異体が示す異常と一致する。近年、脊椎動物細胞を用いた生化学的研究や構造生物学的研究からFGFシグナル系にヘパラン硫酸の6-O位の硫酸化が重要な役割を果たすことが報告されている。本研究から、ヘパラン硫酸の6-O-硫酸化がFGFシグナルの活性化を通してショウジョウバエ気管系の発生を調節していることが示唆された。
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