マウス初期胚では、蓄積されていた母性RNA群から、新たに完成した接合体において転写された接合体型RNAへ遺伝情報発現の変換が受精後20時間頃を境に生じる。この時期に対応する新たな現象として、我々は、ある母性RNAが受精後18時間(1細胞期後期)をピークとして一過的にそのmRNAのポリ(A)鎖を伸長させ、その後分解されることを初めて見いだした。本研究の目的は、我々が見いだした受精後に生じる母性RNAのポリ(A)鎖伸長現象が、マウスの初期胚発生プログラムにいかに関与するかを明らかとすることであり、そのため独自に考案したポリA鎖伸長を起こした母性RNA群のみを濃縮したcDNALibraryを作製し解析することで、その現象の系統的解明を目指している。 本年度は、マウス初期胚にATP誘導体を取り込ませポリA鎖伸長を引き起こしている母性RNAのみを選別するための最適条件を検討した。マウスはICR系統を採用し、受精後5時間および18時間の胚を用いた。胚への塩基誘導体導入方法には、マウス胚に対してマイルドで導入効率の良い条件を探るため胚Injection法(Narishige社、micromanipulater)、permeablization法(TritonX100、Tween20)およびelectoropermeablization法(BTX社、T820)を検討した。誘導体には、Biotin-ATP(10、100mM)およびポジティブコントロールとしてBr-UTP(10、100mM)を用いた。導入効率の評価は、取り込まれた誘導体を間接蛍光免疫抗体法(FITC、Cy3)で同定することで行った。その結果、まだ完全に最適条件を見いだすには至っていないが、胚Injection法およびelectoropermeablization法が有効であるという予備的結果を得、塩基誘導体を取り込む条件を絞れた。
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