シュワン細胞は全身の末梢神経系にあまねく存在し、各々の神経軸索を包み込んでいるが、我々の開発したschwann/2E抗体は髄鞘形成性シュワン細胞のみに反応する。その抗原は組織化学的な検討から蛋白質であることが予想され、遺伝子クローニングに向けた分子精製を試みた。出発物質は剖検で得られたヒト馬尾とし、定法に従いホモジェナイズ、硫酸アンモニウム沈殿、ゲル濾過、アフィニティクロマトグラフィなどを組み合わせて抗原物質の精製を試みた。その結果、抗原は溶解度の低い蛋白であることがわかり、いくつかの界面活性剤を試したが、抗原性を保ちつつ可溶化を促す条件を見出すことができなかった。免疫組織化学的に特異性の高い抗体を用いたアフィニティクロマトグラフィによっても、これまでのところ純度の高い精製には成功していない。 一方、シュワン細胞が髄鞘を作ったり作らなかったりするのは、単に軸索の太さがcriticalなのか、それともschwann/2E抗原の発現、あるいは他の要因が存在するのかを見るために、神経細胞への分化能を有するヒトcentral neurocytoma細胞株とシュワン細胞との三次元共培養を行うことを計画した。髄鞘形成を促進するinsulin-like growth factor1(IGF-1)や神経細胞への分化誘導剤などの添加により、in vitroで軸索形成が再現可能かを検討し、その過程で2E抗原の発現誘導条件を見いだせればmRNAからクローニングへ向けたアプローチも可能となり、分子機能の解明とともにクローニング成功の打開策につながると期待して準備を進めている。
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