中枢神経系におけるグリア細胞の重要性は生理学的にも病理学的にもますます認識されつつある。未解明な点の多い脳神経系において、得られた知見を速やかに応用のためには新しいマーカーの開発が不可欠と考えて、我々はグリアを認識する新しい抗体の開発に取り組み、そのcharacterizationを行うことで細胞の機能に迫るアプローチを取ってきた。 PRAS-4抗体はヒトの灰白質に分布するアストロサイトを特異的に認識する抗体として開発されたもので、ヒトの生理的条件下における発現は論文などで発表済みであるが、分子の機能を探る場合、培養に移行させて様々な条件を与えて検討するといったin vitroの実験系の構築が必要である。しかしヒトのグリア細胞の初代培養は通常得ることはできないので、動物実験への移行を模索する目的でラットにおいてPRAS-4抗原の発現を調べたところ、ヒトとほとんど同じであることがわかった。初代培養下においてもPRAS-4抗原はアストロサイトに発現されていることがわかり、ラットBergmannグリアの培養系を構築して機能解析を試みた。同細胞に発現されているグルタミン酸レセプターをアデノウイルスベクターを用いて非生理的なものに変換してCaイオンを流入過剰または減少の状態にしたところ、いずれの場合においてもPRAS-4抗原は保持された。PRAS-4抗原はミトコンドリア膜に存在する蛋白質であり、Caイオンの動態との関連が想像されていたが、細胞内カルシウム値の変動によってPRAS-4抗原の発現に明らかな変化はなく、ヒトおよびラットにおいて構成的に発現される分子であることが示唆された。 OLIG-1抗体は組織化学的な手法により、オリゴデンドロサイトの核膜ならびに細胞膜に発現する蛋白抗原であることが明らかにされ、我々の知る限りこのような分布を示す分子は知られておらず、一層の研究を進めるため生化学的な分析を計画中である。
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