脊椎動物の間脳領域に位置する視床では、多数の神経細胞が神経核とよばれる組織構築をとって存在している。これらの神経核では、同じ特性を持つ神経細胞が集合体を形成し、性質の異なる神経細胞の集合体から分離して存在している。本研究では、このような視床の各神経核の個性が、どのようなメカニズムによって決定されているかを解き明かすことを目的としている。これまでの研究により、視床核形成の早期から視床核特異的に発現する4種類の転写制御因子を同定し、一部の発現が細胞間シグナル因子であるSonic Hedgehog(SHH)によって制御されていることを明らかにしている。本年度は、SHHが視床の神経細胞の他の形質を変化させるかどうかについて検討を行った。SHHの異所的な発現により、細胞接着因子、神経伝達分子などの発現に変化が見られた。また、そのような検体の組織学的解析により、視床神経核の形態形成に著しい異常が生じることが明らかとなった。したがって、SHHは視床原基のパターン形成のみならず、おそらく神経核細胞の移動、集合などのプロセスにも作用して、神経核の形態形成を制御していることが示唆された。次に、同定した転写因子が実際に視床神経核の特異性決定に関与しているかどうかについて検討を行った。まず、発現パターンの経時的解析により、視床発生の早期にこれらのマーカーの発現によって規定される神経細胞の集団が、のちの特定の神経核の細胞系譜となっていることが示唆された。また、このような解析を通じて、ある一群の神経細胞のきわめて特徴的な移動経路を明らかにした。さらに、これらの因子の役割を直接的に調べるため、より生理的な条件で外来遺伝子の発現をもたらす発現ベクター、および機能阻害型の変異体の作成を行った。
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