レプチン(LP)は、肥満のモデルマウスの遺伝子解析の結果発見された脂肪細胞から分泌されるホルモンであり、摂食抑制作用をもつ。オレキシン(OX)は、オーファン受容体に対する内因性リガンドとして見出された外側視床下部(LH)にほぼ限局して発現する新規の神経ペプチドであり、強力な摂食促進作用をもつことが知られている。この両者が、脳内の特に視床下部にどのようなメカニズムで作用し摂食調節を行うかを明らかにする目的で実験・観察を行った。 成体ラット脳を材料とし、二重免疫組織細胞化学法を用いてしらべたところ、視床下部弓状核(ARC)のニューロペプチドY(NPY:摂食促進物質)、プロオピオメラノコルチン(POMC:摂食抑制物質)ニューロンは、ともにその多くが、レプチン受容体およびオレキシン受容体を発現していた。また、OXニューロンのNPY、POMCニューロンへの神経投射は、シナプス結合によるものであった。さらに、ARCから単離したニューロンにLPやOXを反応させ、単一ニューロンレベルでの細胞活動変化を、細胞内カルシウムイオン濃度を指標として生理学的に解析したところ、NPYニューロンはLPおよびOX添加に伴って抑制および活性化された。一方、POMCニューロンはLPによって活性化し、OX添加で抑制された。これらの結果から、LHおよびARCにおいては、種々の摂食調節ニューロンが複雑なニューロンネットワークを構築しており、しかも脂肪細胞由来のLP、および神経ペプチドOXが、NPY、POMCニューロンの神経活動を、液性および神経性に調節制御していることが明らかになった。
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