本研究ではアカハライモリの神経網膜再生過程をモデルとし、そのうち非神経細胞である色素上皮細胞が分化転換により神経幹細胞へと表現型を変化させる過程に着目して、これに関わる新規遺伝子群を検出、同定することにより、分化転換のメカニズムを理解すること、および神経網膜再生過程におけるイモリとより高等な生物種との違いを遺伝子レベルで明らかにすることを目的とする。 本年度はまず分化転換を遺伝子レベルで評価するのに必要であると考えられる各種マーカー分子のcDNAクローニングを、神経網膜再生過程の各段階にある眼球由来のRNAおよびイモリ初期胚由来のRNAより作製した各cDNAライブラリーを用いて行った。またイモリの眼球の摘出・再移植手術により、神経網膜の再生現象を起こさせ、この再生過程中のいつごろに色素上皮細胞の分化転換が観察されるのかについて検討した。その結果、再生過程の網膜細胞の形態や挙動の変化、各種マーカー遺伝子の発現パターンなどから判断して、術後12-16日ころに色素上皮細胞が分化転換し、神経幹細胞へと表現型を変化させると考えられた。しかし術後12日以前にも、初期発生に関係している重要遺伝子の一部は発現が認められることから、分化転換のマスター遺伝子も細胞が形態変化を起こす以前から発現している可能性が考えられた。術後20-26日ころには、透明の細胞層が厚みを増し、神経細胞へ分化していくことが観察された。現在、分化転換時に特異的に発現する遺伝子を検出・同定するためにDifferential display法による解析を検討している。
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