神経回路形成の過程では、誘引や反発以外に、軸索の側枝の誘導や、側枝・主軸索の消失といった現象も重要な役割を担うことが知られているが、これらの分子機構に関してはほとんど解っていない。申請者は、皮質橋核路をモデル系として、軸索側枝誘導の分子機構を解明することを目的として、研究計画に従い、以下の実験を行った。 1.軸索側枝誘導のアッセイ系の確立 大脳皮質脊髄路の形成における軸索側枝に関しては、これまでの研究から、脳幹の標的である橋から拡散性の物質が分泌され、橋の近傍を通過した大脳皮質の遠心性神経軸索に作用し、側枝を誘導すると報告されている。そこで、まず、コラーゲンゲルの三次元培養系を用いて軸索側枝形成が観察できるかどうか検討したところ、大脳皮質から数多くの軸索が伸長し、橋の方へ誘引されるのが観察された。さらに、橋の培養上清と大脳皮質との共培養によって、側枝形成が促進されるかどうか検討したが、有為差は、見られなかった。今後、さらに、アッセイ系の感度を高める必要がある。 2.軸索側枝誘導因子のスクリーニング アッセイ系の確立と同時に、橋由来の分泌蛋白を網羅的にクローン化することを、酵母のsignal sequence trap法を用いて試みた。今年度は、新生ラットの橋核RNAからcDNA Libraryを作製し、signal sequence trapの予備的な実験を行った。その結果得られた約40クローンのうちの多くが、シグナル配列と予想される疎水性のアミノ酸配列を持っており、実験系の立ち上げに成功した。クローンの中には、脳に発現していることがすでに知られている膜蛋白や、ESTにのみHomologyの検出される分子、あるいは、まったく既知の分子とHomologyがない分子が含まれていた。今後、スクリーニングの規模を大きくし、候補となる分子を探索していく計画である。
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