本研究は、神経系細胞における諸機能とスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体サブタイプとの関連、そのシグナル伝達系の違いなどに検討することを目的としている。平成12年度では、分子生物学的アプロ-チ(受容体分子の遺伝子の導入)および薬理学的アプロ-チ(特異的阻害剤などを用いる)により、アストロ・グリア細胞におけるS1P受容体サブタイプの同定並びにそのシグナル伝達経路を解析した。ラットアストロサイトやC6グリア腫細胞ではS1Pが神経栄養因子の一つ塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)を発現する。この作用はMAPキナーゼ(ERK)の活性化・Egr-1(zinc finger型転写因子)の発現を伴っている。さらに、S1Pは細胞増殖に重要なフォスフォリパーゼD(PLD)活性化応答を引き起こす。C6グリア腫細胞用いて、これらの細胞応答に細胞内でのS1Pの蓄積は不要であり細胞膜受容体を介する可能性を示してきた。実際、C6細胞には2つのS1P受容体(Edg-1、Edg-5)が発現している。そこで、RT-PCRにてクローニングした各S1P受容体遺伝子を導入したS1P受容体過剰発現C6細胞を得た。なお受容体分子の発現確認は^3H-S1P結合能およびベクター由来mRNA発現を調べた。野生型細胞では百日咳毒素(PTX)感受性のERK活性化・bFGF発現が、PTX非感受性のPLD活性化がみられた。受容体発現細胞を用いてS1P作用の解析を行ったところ、ERK活性化・bFGF発現はPTX感受性(Edg-1、Edg-5)経路で引き起こされたが、Edg-1がより低濃度で作用発現した。一方、PLD活性化はPTX感受性(Edg-1)およびPTX非感受性(Edg-5)経路で引き起こされた。このように、野生型C6細胞においてS1PによるERK活性化・bFGF発現応答にはEdg-1が、PLD活性化応答にはEdg-5が関与していると推定された。
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