本研究は、神経系細胞における諸機能とスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体を介した作用について検討することを目的とした。平成12年度では、アストロ・グリア細胞におけるS1P受容体サブタイプの同定並びにそのシグナル伝達経路を解析した。平成13年度では、PC12細胞での神経突起退縮機構並びに血漿リポ蛋白質中のS1Pを介し調節作用の解析を行った。S1Pやリゾフォスファチジン酸(LPA)などの脂質メディエーターはEdgファミリー(G蛋白質連関型受容体)/Rhoシグナル伝達系を介して神経突起の退縮を引き起こす。一方、血漿リポ蛋白質にも神経突起退縮作用が認められているが、詳細は明かではない。我々は血漿リポ蛋白質がS1Pのキャリヤーとして機能していることを見出している。また、酸化リポ蛋白質、特に酸化LDL中ではLPAの蓄積が観察されている。これらの知見は、リポ蛋白質の神経作用発現がS1PやLPAを介する場合も想定させる。今回その可能性を検討した。 その結果(1)血漿から分離したリポ蛋白質(LDL、HDL)や硫酸銅で酸化させたLDLはいずれもNGFによる分化PC12細胞の神経突起退縮を数分で引き起こした。(2)この作用はS1PやLPA同様、C3ボツリヌス毒素やY27632処理細胞で著明に抑制された。(3)細胞をS1P、LPAの両リガンドで処理(受容体を脱感作)すると退縮応答はリポ蛋白質の酸化状態にかかわらずほぼ完全に消失した。しかし、S1PまたはLPAで処理した細胞ではリポ蛋白質の酸化状態でそのリガンド特異性、また抑制の程度は異なった。この様にリポ蛋白質による、少なくとも、速い神経突起退縮作用はリポ蛋白質に含まれるS1PやLPAが主なメディエーターであり、Edg受容体/Rho/ROCK経路を介していること、また、リポ蛋白質の酸化状態で関与するEdg受容体の種類が変化することが示唆された。
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