研究概要 |
従来、中枢神経系の神経細胞には再生機能がないと考えられていたが、近年の研究により、軸索の切断や神経細胞の欠落などの障害時には、神経回路の再編成が行われることが明らかとなった。私は、海馬の神経回路網を保持したまま組織培養するという高度な手法を用いて、苔状線維を人為的に切断したところ、切断された線維は約一週間後には形態、機能ともにほぼ完全に回復することを明らかにした。この現象に対し種々の薬理学的検討を行い、苔状繊維の再編成にはL-type Ca^<2+>チャネルの活性化(Neuroscience98:647-659,2000)、cAMP/PKA・cGMP/PKG系(投稿中)、mGlu受容体(投稿準備中)、BDNFシグナル(研究進行途中)が関与していることを示唆した。このように私は予定通りの研究を平成12年度に遂行し、予想されていた以上の多くの知見を得ることに成功した。また、L-type Ca^<2+>チャネルに関しては、培養系に留まらず、in vivoの系でも検討を重ね、マウスのてんかん発作後に観察される苔状繊維の異常形成がL-type Ca^<2+>チャネル阻害薬で抑制されることも明らかにし、臨床における有効性も示唆した。平成13年度は、以上で得られた基礎データに基づいて、再生機能を亢進させる方法を探究する予定である。とくにBDNFは機能亢進効果が期待できる内因性物質であるため、まずはこの因子の中心に作用の解析を進める。
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