研究概要 |
本研究は遅発性神経細胞死を呈する海馬CA1領域と虚血耐性を示すCA3/dentate gyrus(DG)でのNMDA受容体チロシンリン酸化の経時的変化ならびにリン酸化チロシン残基を介する細胞内情報伝達への関与に主眼を置き,企画された. 本年度はラット一過性(15分)全脳虚血モデルを用い,海馬CA1領域とCA3/DG領域でのNMDA受容体サブユニットNR2AならびにNR2Bチロシンリン酸化の経時的変化を検討した.その結果,一過性脳虚血後再灌流早期(再灌流10分)からNR2AおよびNR2Bサブユニットのチロシンリン酸化は偽手術群と比較し,両領域で増大した.NR2Aのチロシンリン酸化の増大は,両領域で再灌流後24時間まで持続した.一方,CA3/DGでのNR2Bのチロシンリン酸化増大は再灌流後24時間まで持続するものの,CA1領域のNR2Bチロシンリン酸化は再灌流24時間後には偽手術群レベルまで戻った.また,一過性脳虚血後のNR2Aチロシンリン酸化は両領域でNR2Bのそれと比較し顕著であった. 次に,チロシンリン酸化NR2サブユニットの脳虚血病態での役割を検討するために,Src homology 2(SH2)ドメインとの相互作用実験を遂行した.GST融合PI3-kinaseSH2ドメインをタンパク質間相互作用実験に用いた結果,そのSH2ドメインはチロシンリン酸化NR2Bサブユニットに結合し,一過性脳虚血・再灌流後にその結合は増大した.一方,再灌流後のNR2Aチロシンリン酸化はNR2Bのそれと比較し顕著であるにも関わらず,偽手術群あるいは虚血群のNR2AはPI3-kinaseのSH2ドメインと結合しなかった. 以上本年度の研究結果より,一過性脳虚血後のチロシンリン酸化NR2Bサブユニットを介した細胞内情報伝達起動の可能性を示唆する新しい知見を得た.
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