本研究は、シナプス形成部位である神経終末(前シナプス)及びspine(後シナプス)の機能を同時に画像化することにより、"シナプスの可塑的変化"機序の解明、及びシナプスの可塑性を"見る"新しい評価法を確立することを目的としている。長期増強などシナプス可塑性獲得過程では、サイレントシナプスと呼ばれる、通常機能していないシナプスが機能的になることが重要であると考えられている。このシナプスの脱サイレント仮説には二つの有力な説、つまり(1)後シナプスの脱サイレント化、及び(2)前シナプスの脱サイレント化、があるが、前及び後シナプスを同時に記録する実験系が無いことから、未だにこれら仮説の是非は不明のままである。本年度は、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、特に"単一神経終末"の機能を画像化する基礎検討を行った。神経終末の機能を画像化する方法として、FM1-43色素を機能的シナプスに取り込ませること、またFM1-43の非特異的結合を除去するために特殊なスカベンジャーとしてADVASEP-7を応用することに成功した。まず後根神経節細胞での検討により、ATPにより惹起される単一後根神経説細胞からの神経伝達物質放出過程を画像化することが可能となった。さらに、より複雑な系、脳の海馬のスライス標本を用いて、ATPによって惹起される興奮性神経伝達物質グルタミン酸放出の抑制過程を画像化することに成功した。神経終末特異的なマーカーであるシナプスファイジンとFM1-43の二重染色による解析により、画像化した部位のほとんどが神経終末であることが明らかとなった。今後は、後シナプス部位spineの画像化技術を完成させること、さらにFM1-43との同時画像化法を完成させ、シナプス可塑性獲得過程における、サイレントシナプスの脱サイレント機序を解明を目指してゆく。
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