研究概要 |
味覚嫌悪学習(conditioned taste aversion,CTA)は、味覚刺激に対する快・不快を変換する情動性の長期記憶を形成する。CTAの獲得・保持・想起にも遺伝子発現、特に最初期遺伝子であるc-fos、およびzif/268が関連しているか否かを確かめるために、アンチセンスオリゴDNA法を適用し、遺伝子産物産生を阻害した効果を行動学的に検討した。c-fos、およびzif/268の翻訳開始部位近傍のDNA塩基配列に相補的なアンチセンスオリゴDNA(AS-ODN)を合成し、それを脳内の大脳皮質味覚野(GC)・扁挑体(AMY)・結合腕傍核(PBN)に微量注入した。それぞれのAS-ODNは、遺伝子翻訳をほぼ完全に阻害していた。GC・AMYにc-fosに対するAS-ODNを注入しても、CTAの獲得は障害されなかったが、長期的な保持は、塩基配列をランダムにしたコントロールオリゴDNA投与群に比べて減弱していた。また、PBNにc-fosに対するAS-ODNを投与すると、獲得過程が減弱していた。また、保持も減弱していた。また、保持テストの6時間前にc-fosに対するAS-ODNをGC・AMY・PBNに投与しても、CTAの再生には障害を認められないと思われる予備的な結果を得つつある。一方で、zif/268に対するAS-ODNをAMYに投与しても、CTAの獲得・保持には影響しないと思われる予備的結果を得ているので、より詳しい確認を計画している。今後は、c-fos、およびzif/268に対するAS-ODNがお互いにそれぞれの遺伝子産物の合成を阻害しないか否かを検討する予定である。以上、から、zif/268ではなくc-fos遺伝子発現がCTAの長期的保持には、より関与しているものと思われるので、さらにその影響を検討する予定である。
|