脳磁図を用いた「ヒトにおける顔認知機構」の解明が本研究の主要目的である。現在研究中のテーマは、「顔の各部分の動きに関与する脳内部位の同定」と「倒立顔認知機構の解明」の2つである。 本年度は、「顔の各部分の動きに関与する脳内部位の同定」の研究を中心に行った。顔の部分の動き、特に目の動きの認知は日常生活において極めて重要と思われる。サルでは運動視の中枢は後頭葉と側頭葉の境界付近にあるV5/MT野と考えられているが、ヒトでは未だ十分には明らかにされていない。先行研究として、縦棒が水平移動する様に見える仮現運動(実際には2つの異なる位置に存在する縦棒の画像が短い時間間隔で示されるために動いているように見える)を用いてヒトの運動視中枢を検索したところ、その活動部位はサルと類似の位置に存在した(Human homologue of V5/MT)。この結果をふまえて、同じく仮現運動の原理を用いて目が水平運動をしているように見える視覚刺激を作成し、「目の動き」を見たときの脳内活動部位を脳磁図を用いて解析した。すると、潜時約190msec付近に明瞭な反応が見られ、その活動部位はやはり後頭葉と側頭葉の境界付近であった。また半球間差が見られ、右半球優位であった。同時に一般的な運動として円が中心に向かって動くように見えるradial運動と比較したところ、目の動きに対する活動部位は有意に後下方に存在しており、V5/MT野内においても運動の種類によって活動部位が異なることが示唆された。今後は、目の動きの方向の相違により脳反応に変化が見られるかどうか、また顔の他の部分、すなわち開口や閉口運動等を見たときに活動する部位が目の動きに対する反応部位と同様か否か、といった点を明らかにしていきたい。
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