近年の科学技術の進歩により、ヒトの脳機能を非侵襲的、すなわち全く傷つけることなく検索できるようになった。脳のどこが活動しているかを明瞭に示すことができるため、mappingあるいはimaging手法と称されている。脳磁図はその代表的な機器の1つであり、神経細胞の生理的活動を記録する手法である。数msec単位の時間分解能と数mm単位の空間分解能を有しており、時間分解能においてポジトロン断層撮影(PET)や機能的磁気共鳴画像(fMRI)より、また空間分解能において脳波よりはるかに高い性能を有している。本研究では、脳磁図を用いて「ヒトの脳機能」特に「認知機能」を研究することを目的としている。 「顔の認知」は動物、人のいずれにおいても最も重要な機能の一つと思われる。本年度は、脳磁図を用いて「人における顔の認知」機構について検討を行った。「顔」刺激に対して特異的に刺激から約150msecに反応が見られた。「手」や「幾何学的模様」に対しては反応が見られなかった。「顔特異反応」は右半球優位で、下側頭葉の紡錘状回に活動が見られ、臨床的に「顔貌失認」を呈する患者の病巣と良く一致していた。「顔の部分の動き」の認知も日常生活では重要である。目が中央から右に素早く動く刺激を呈示したところ、刺激から約200msecに反応が見られた。その活動源は、顔認知中枢である下側頭葉の紡錘状回ではなく、側頭葉後部の後頭葉との境界付近であり、サルの運動視(動体視)の中枢とされているMT/V5野に相当する部位と考えられた。これもやはり右半球優位であった。
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