本研究はラット及びマウスの胎児や新生児の脊髄摘出標本を用いて歩行リズムにおける左右の交互パターンの形成に関わっている脊髄介在ニューロンを同定し、その電気生理学的、形態学的性質とその胎生期における日齢に伴う変化を調べることを目的にしている。これまでに我々は、胎生ラット脊髄摘出標本において胎生15.5-16.5日には、腰髄前根における5-HT誘発リズムは左右で同期したパタンを示し、胎生20.5日までには左右交代性のパタンに変化することを明らかにした。本研究でまず我々はこれらの左右の神経回路網の結合は前交連を通る神経軸索によって伝えられていることを確認した。次にこれらの前交連に軸索を送る交叉性ニューロンを逆行性に標識し、脊髄内における位置とその日齢による変化を明らかにする目的で胎生15.5-16.5日及び胎生20.5日において摘出した腰髄の断面の片側に脂溶性標識色素Dilの結晶を挿入し、反対側から投射している交叉性ニューロンを標識してその細胞体の位置を確認した。この結果、どちらの日齢ともこうしたニューロンの多くは脊髄腹側3分の2に分布しており、特に内測に細胞体が位置するものが多く染色された。さらに、胎生ラット脊髄摘出標本において、カルシウム感受性色素のCalcium green-1AMを逆行性に交叉性ニューロンに取り込ませ、カルシウム・イメージング法を用いて細胞内カルシウム濃度の変化を観察した。この結果、多くの腹内側に位置する交叉性ニューロンに運動ニューロンのリズム活動と一致した細胞内カルシウム濃度の上昇が見られた。今後、マウスにおいても同様の実験を行ない、これらのニューロンを赤外線微分干渉法と蛍光観察を組み合わせて、単一ニューロンのホールセル記録を行なってそのリズム活動の際の膜電位変化について調べる予定である。
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