マウス海馬スライス標本を用いて、CA3領域における苔状線維由来の興奮性シナプス後電位(EPSP)に対するCa^<2+>チャネル阻害剤の効果を検討した。NタイプCa^<2+>チャネルの特異的阻害剤ω-conotoxinGVIA(1μM)、及び低濃度(100nM)のP/Qタイプチャネル阻害剤ω-agatoxinIVAはEPSPを部分的に阻害した。しかし、刺激頻度を通常の0.067Hzから1Hzに上昇させることによって誘発したシナプス促通には影響を及ぼさなかった。R及びTタイプチャネル阻害剤Ni^<2+>(100μM)はEPSPを部分的に阻害し、さらに促通を増強した。この促通に対する増強作用はω-conotoxinGVIA、ω-agatoxinIVAの投与、あるいは細胞外液のCa^<2+>濃度を減少させたときには見られなかったので、伝達物質放出の減少によるものではなくNi^<2+>に特異的な作用と考えられる。Ni^<2+>は単発刺激を与えた際のシナプス前終末内Ca^<2+>濃度上昇を抑制したが、1Hz刺激中のCa^<2+>の蓄積は逆に増大させた。Ni^<2+>による促通の増強はこのCa^<2+>蓄積に対する増強作用に由来するものと考えられる。Ni^<2+>は細胞内のCa^<2+>濃度調節に関与するNa^+/Ca^<2+>exchangerに対しても抑制作用があるが、Na^+/Ca^<2+>exchangerの特異的阻害剤KB-R7943を投与しても促通の増強は見られなかった。Ni^<2+>感受性のCa^<2+>チャネルは伝達物質放出に必要なCa^<2+>流入を担うだけではなく、間接的に細胞内Ca^<2+>の蓄積を抑制し、促通に対して負のフィードバックをかけている可能性が考えられる。
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