研究概要 |
高次神経機構による直立二足歩行運動の制御機序を神経生理学的手法を用いて解明する目的で,無拘束の中枢無傷ニホンサルを用いた二足歩行動物モデルを確立した.本年度はこのモデルの障害物を設置したトレッドミル上での歩容の特徴を運動力学的手法を用いて三次元的に解析することを主研究項目とした.このためサルの頭部,上肢,体幹,下肢,足の主要関節部にマーキング点を設け,高さの異なる障害物を歩行面の左一側に設置し,トレッドミル上を歩行するサルを左側方・後方から高速画像録画装置を用いて撮影した.録画面上のマーキング点から歩行時の体幹軸角度の変化,下肢運動の動力学,主要関節角度の変化などを計測し,体幹・下肢運動分節の動きを空間的・時間的に解析した.その結果,1)サルは空間内で体幹軸を制御しつつ,下肢関節の屈曲運動ストラテジーを予め動員して障害物の出現に備え,これを越える際には障害物上に十分な空間を作り,つまずくことなく歩行運動を継続すること,2)障害物とこれを越える足の着地位置関係により,この足の遊脚相での軌跡を変えること,3)障害物につまずいた際には,転倒を防ぐために上肢を用いた防御姿勢をとりつつ,姿勢の回復を短時間内に終了させ通常の歩行に復帰することが明かとなった.以上の結果から,本動物モデルはヒトと多くの類似する歩容の特徴を有し,サル歩行モデルはヒトと共通した直立二足歩行実行・継続に関わる予測制御・適応制御などの高次な運動制御機序を動員して歩行運動を実行すると考えられた.来年度はこの動物モデルを用い,本研究と平行して行っているPETを用いた二足歩行に関わる脳部位にGABA_A agonistであるmuscimol(ムシモル)を微量注入し,その前後での歩容の特徴を同様に解析し,二足歩行の遂行が姿勢の保持と歩行運動遂行機構の統合によってなされているという作業仮説を検証する予定である.
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