研究概要 |
動脈硬化症の局在的発症のメカニズムを明らかにするために,血管壁のリポ蛋白(コレステロールの担体)の取り込み量におよぼす流れ(せん断応力・せん断速度)および水透過性の影響を,培養内皮細胞単層と蛍光ポリスチレン微粒子をそれぞれのモデルとして用いて同じ流路において詳細に調べた.その結果,内皮細胞単層に水透過性を与えない場合には,従来の培養細胞を用いた研究で報告されているように,壁せん断応力が高いほど多くの微粒子を取り込むことが確かめられた.一方,内皮細胞単層に生理的範囲の水透過性を与えた場合には,壁せん断応力を低くした場合の方が,取り込む微粒子の量が多いことがわかった.さらにその取込量の上昇は壁せん断応力が非常に低い範囲(1dynes/cm^2以下)で起こることがわかった.この結果はヒト動脈での病理解剖結果や動物実験の結果と一致した傾向であり,培養細胞においてもその細胞単層の水透過性を生理的な値に設定することにより,生体内での実際の現象に近い結果を得ることができることが明らかになった.これは内皮細胞表面上において巨大分子の流速依存性濃縮現象が起こっているためであると考えられる. 次に低密度リポ蛋白(LDL)受容体によるLDLの取り込みにおよぼす流れと壁透過性の影響を調べるために,LDLを血液から抽出し,蛍光標識する方法を検討した.その結果,分離した血漿にCaCl_2を添加してリポ蛋白を沈殿させて抽出する方法が簡便で有用であった.また,フルオレセインやDPH(1,6-diphenyl-1,3,5-hexatriene)の様な疎水性の蛍光物質で標識したリポ蛋白が培養血管内皮細胞を用いた実験には適していることがわかった.
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