研究概要 |
摺動面潤滑液曝露時間が人工関節設計パラメータとして非常に有効であることが証明された.人工関節の摩耗は潤滑状態と深い関連があり,潤滑状態は二つの摺動面の接触面圧と滑り速度により決定されるという一般的見解にインパクトを与えうる内容であった.設計パラメータはHard-on-PolymerとHard-on-Hard人工関節両方に適用できた.実験に供した模擬関節液が広範なバイオトライボロジー研究に有効であることも示せた.具体的な成果は以下の通りである. 1.Hard-on-Polymer人工関節の代表例として超高分子量ポリエチレンとCo-Cr-Mo合金の摩耗試験を行った.曝露時間が比較的長いとポリエチレンの比摩耗量は一定値を示すが,曝露時間が短くなるに従い比摩耗量が増大した.接触面圧が12.0MPa以下では,非摩耗量と曝露時間の関係は一つの指数関数(r>0.99)で表現できた.成果をもとに13年度はポリエチレンの相手材をセラミックスに変更し,硬質摺動面の選択指針の確立も行う. 2.Hard-on-Hard人工関節の代表例としてCo-Cr-Mo合金同士の摩耗試験を行った.全体的には曝露時間を短縮すると比摩耗量が増大した.これは,耐摩耗性を示す摺動面金属酸化膜が摩擦により損傷した場合,その修復に潤滑液中の溶存酸素を必要とするためと考えられる.この現象は酸素濃度が低下すると劣化が起こりやすいという金属インプラント材とほぼ同じ傾向である.しかし,人工関節特有と思われる現象も観察された.生体内程度の溶存酸素濃度の低下は,摺動面表層の金属酸化膜の修復を遅延させ,金属母材深部までの酸素の拡散を許容するようであった.その結果,金属母材深部まで厚く・傾斜的な金属酸化膜が形成され比摩耗量が低下すると考えられる現象が観察された.13年度はこの摩耗メカニズムを解明し,新たな設計指針を求める予定である.
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