研究概要 |
本年度は,2重円筒回転型粘度計を利用した高剪断応力負荷試験機を新たに開発した.外筒直径を66mm,内筒との間隙を0.1mmとし,間隙部に血液を充填し内筒のみが回転することで専断負荷を加える.材料にはアクリル樹脂を用いることで外部から血液流れが観察出来る様にした.ヒツジ血液から遠心分離器(2500rpm,5分間,3回)にて赤血球のみを分離採取し,生理溶液にてヘマトクリット値10%に希釈し負荷実験を行った.負荷条件は剪断速度36000/sec(モータ回転速度1050rpm),負荷時間5分,室温(25℃)とした.剪断力負荷後,直ちに赤血球をウシ胎児血清によりカバーガラス上に展開固定し乾燥させAFM観察試料とした.AFM観察は大気中カンチレバー共振モードにて行い,走査範囲は赤血球全体像7μm×7μm,細胞膜の拡大像500nm×500nmとし,10個の赤血球について観察を行った.その結果,専断負荷により2種類の形状変化が生じることが分かった.一つは細胞膜上の粒形状(径20-30nm,高さ1nm)の変化であり,専断負荷により粒形状は滑らかとなり消失する傾向にあることが分かった.もう一つは細胞膜構造の変化であり,膜の全体的なうねりが負荷により大きくなることが,画像の断面曲線並びに表面粗さ値の増加(33%)より分かった.この変化は膜の裏打ち構造タンパクの変化によるものと考えられた.また表面粗さ値はヘモグロビン流出量と相関を有することが分かった.以上より専断速度負荷により細胞膜のナノスケール構造が変化することが分かり,溶血現象と関連付けられる可能性が示された.本負荷装置はACサーボモータの駆動条件をパーソナルコンピュータにて柔軟に制御することで,各種流量条件(専断力負荷条件)の設定が可能であることから,今後,各種条件下で実験を行い赤血球膜の破壊モードについて検討を行う必要がある.
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