研究概要 |
光合成過程で炭酸ガスの固定に関与する酵素Rubiscoは全緑葉タンパク質の1/3ないし1/2を占めることから、地球上で最も多量に存在するタンパクと言われており、植物タンパクとしては例外的に栄養学的に理想的なアミノ酸組成を有する。そこで、Rubiscoの酵素消化物について生活習慣病の予防に寄与する生理活性ペプチドの探索を行った。その結果、ホウレンソウRubiscoのペプシン消化物からδオピオイドペプチドとして単離したrubiscolin (Tyr-Pro-Leu-Asp-Leu-Phe)はマウスに対する100mg/kgの経口投与により学習促進および抗不安作用を示した。ホウレンソウRubiscoのペプシン・パンクレアチン消化物から4種類のアンジオテンシン変換酵素阻害ペプチド(MRWRD, MRW, LRIPVA, IAYKPAG)を単離した。これらのうち、MRWRD, MRWおよびIAYKPAGは高血圧自然発症ラット(SHR)に対する経口投与の際に血圧降下作用を示した。ホウレンソウから50%以上のRubisco含量をもつ標品を調製し、ペプシンおよびパンクレアチンにより消化した結果、Rubisco精製標品の場合よりも強いアンジオテンシン変換酵素阻害活性を示した。特に、ペプシン消化物は高血圧ラットに対して強力な血圧降下作用を示した。このことは緑葉タンパク質の摂取が高血圧の予防に有効であることを示唆している。同様なペプチドが他の植物のRubiscoからも派生することが判明している。Rubiscoは地球温暖化の原因となる炭酸ガスの増加を抑制する酵素として、環境保全の観点からも期待されているが、そのRubiscoが栄養性および生活習慣病予防機能においても優れているという事実は、本タンパク質が人類にとって一石三鳥の効果をもたらすことを意味しており、低環境負荷のもとで生産可能な理想的食品素材として今後の利用促進が期待される。
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