研究概要 |
本科研は、日本留学試験の事業と平行して研究を進めてきたが,その過程で研究テーマは次の3点に絞られることとなった。 1.得点等化の方法,特に,計量心理学的モデルの適用に関する研究 2.得点等化をバックアップするデータベースシステムの設計・仕様策定に関する研究 3.得点等化された試験に関連した法的問題に関する研究 それぞれの研究テーマに関して,現時点までに行ってきた研究と,その成果について報告しておきたい。 1.得点等化の方法について 日本留学試験では,大別して共通項目法(日本語)と共通受験者法(基礎学力科目)の両方を用いた事例が得られた。特に,共通項目法に関しては,本年11月の試行試験の結果,項目反応理論(IRT)の適用可能性が(基礎学力科目も含めて)明らかになり,ソフトウェアの使用等についても多くのノウハウが蓄積されつつある。具体的な等化方法については素点を用いるtrue score equatingと,潜在特性の推定値に基づく方法との優劣が議論された。この問題については,オランダのWim van der Linden教授,米国のMichel J. Kolen教授を海外旅費等によって招聘し,個別に指導を仰いだ。共通項目法のキーとなる,項目再利用に関しては,試験実施地域を考慮したテスト設計等,若干の新方式の考案もなされた。さらに,数名の分担者は,IRTに関する新たな知見を得ており,これらは,我が国の試験の範囲を超えた結果として,国際的に発信可能であろう。 いずれにしても,このトピックについては,次年度,かなり充実した報告がなされる見込みである。 2.デタベースシステムの設計・仕様策定 この点については,仕様書が完成し,研究は事実上終了した。この仕様書は,試験が本格実施される次年度以降において,実際に活用されよう。 3.得点等化されたテストに関する法的問題 公的試験の結果は,個人の人生における選択の範囲を狭めるものである以上,それが受験者に不公平感を与える可能性のあるテストは,常に訴訟の対象になる危険性をはらんでいる。特に得点等化されたテストは,問題の非公開性,等化方法の不透明性という点において,より困難な問題をかかえることになる。この点に関しては,今年後半から,名古屋大学法学部の森際康友教授を研究協力者に迎え入れ,同教授と森総合法律事務所の弁護士によって,まずは日本の現行法制下で,さらには,欧米諸国における判例研究等が精力的に進められている。その結果,来年当初には,ある程度の成果が現れる予定である。
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