商用周波電磁場の細胞・分予レベルにおける応答機構

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 12831003
• 研究機関: 京都大学
• 研究代表者: 宮越 順二 京都大学, 医学研究科, 助教授 (70121572)
• キーワード: 変動磁場 / 姉妹染色分体交換 / 染色体異常 / DNA鎖切断 / 電離放射線

研究概要

商用周波の極低周波変動磁場(ELF磁場と略す)による姉妹染色分体交換(SCE)、染色体異常、ならびに遺伝子DNAへの直接的な影響として、DNA鎖切断の有無について検討した。
1.SCEならびに染色体異常に関しては、m5Sマウス由来培養樹立細胞を用いた。擬曝露、ELF磁場(5mT〜400mT)曝露、ならびに放射線照射、マイトマイシンC(MMC)処理単独とELF磁場との併用実験を行った。それぞれの処理と対して100個以上の染色(分)体像をランダムに選び、ISCN(1985)の基準に従い分類ごとの異常出現頻度を算出した。ELF磁場曝露によるSCE頻度については、400mTで有意に上昇したが、50mT以下では擬曝露と差が見られなかった。染色体異常の解析からは、gapを含む染色分体型の異常頻度が50mT以上で上昇した。従って数ミリT以下のELF磁場はSCEや染色体異常に影響を及ぼさないと考えられる。一方、放射線やMMCとELF磁場を併用した場合、染色分体型の染色体異常頻度が5mTから400mTにかけて磁束密度依存的に上昇した。この結果から、放射線や化学物質による染色体異常誘発について、ELF磁場は増強する形で修飾することが示唆された。
2.ELF磁場が直接DNA鎖切断を引き起こすかどうかについて、アルカリコメットアッセイ法を用いて検討した。ヒト脳腫瘍由来MO54細胞を用いた。4℃にて30分間の、5mT〜400mTのELF磁場曝露単独では、有意なDNA鎖切断は観察されなかった。しかしながら、X線照射後ELF磁場を曝露した場合、磁束密度50mTを超えるとDNA鎖切断がX線単独に比較して、わずかではあるが有意に増加した。この結果、ELF磁場単独では直接DNA鎖切断を引き起こす可能性はないと考えられるが、放射線によるDNA鎖切断の増強効果を有することが示唆された。

研究成果

• [文献書誌] J.Miyakoshi: "Increase in hypoxanthine-guanine phosphoribosyl transferase gene mutations by exposure to electric field."Life Sciences. 68. 1041-1046 (2000)
• [文献書誌] J.Miyakoshi: "Increase in X-ray-induced mutations by exposure to magnetic field (60Hz,5mT) in NF-κB-inhibiteed cells."Biochem.Biophys.Res.Commun.. 276. 238-243 (2000)
• [文献書誌] J.Miyakoshi: "Inhibition of IκB-α phosphorylation at serine and tyrosine acts Independently on sensitization to DNA damaging agents in human Glioma cells"Br.J.Cancer. 82. 28-33 (2000)
• [文献書誌] J.Miyakoshi: "Increased chromatid-type chromosomal aberrations in mouse m5S Cells exposed to power-line frequency magnetic fields."Intl.J.Radiat.Biol.. 76. 1677-1684 (2000)
• [文献書誌] J.Miyakoshi: "Exposure to strong magnetic fields at power frequency potentiates X-ray-induced DNA starnd breaks."Journal of Radiation Research. 41. 293-302 (2000)
• [文献書誌] J.Miyakoshi: "Exposure to extremely low frequency magnetic fields suppresses X-ray-induced transformation in mouse C3H10T1/2 cells."Biochem.Biophys.Res.Commun.. 271. 323-327 (2000)