商用周波の極低周波変動磁場(ELF磁場と略す)による遺伝子DNAへの直接的な影響として、DNA鎖切断の有無、ならびにストレスタンパク、ここでは熱ショックタンパクの遺伝子発現について検討した。 1.ELF磁場が直接DNA鎖切断を引き起こすかどうかについて、アルカリコメットアッセイ法を用いて検討した。ヒト脳腫瘍由来MO54細胞を用いた。4℃にて30分間の、5mT〜400mTのELF磁場曝露単独では、有意なDNA鎖切断は観察されなかった。しかしながら、X線照射後ELF磁場を曝露した場合、磁束密度50mTを超えるとDNA鎖切断がX線単独に比較して、わずかではあるが有意に増加した。この結果、ELF磁場単独では直接DNA鎖切断を引き起こす可能性はないと考えられるが、放射線によるDNA鎖切断の増強効果を有することが示唆された。 2.ヒト白血病由来細胞HL60を使用し、高磁束密度のELF磁場曝露がストレスとして真に熱ショック蛋白の誘導に影響をおよぼしているかどうかを検討した。磁束密度50mTのELF磁場曝露では24時間処理までHSP70タンパクの発現誘導は認められなかった。また、陽性対照として温熱処理の影響を調べ、ELF磁場と温熱併用処理による熱ショック蛋白の発現へのELF磁場の修飾効果をも検討する。40〜42℃のマイルドな熱ショックによりHL60細胞においてHSP70タンパクの発現誘導が観察された。この熱処理と50mTのELF磁場曝露を同時併用した場合、温熱単独で発現誘導されたHSP70タンパクのレベルが低下し、ELF磁場によるHSP70発現の抑制効果が認められた。これらの結果から、高レベルELF磁場は熱ショックにより誘発されるHSP70の発現についてネガティブフィードバックの作用を増強しHSP70発現を抑制していることが示唆された。
|