研究概要 |
今年度は、(1)サルの大脳皮質第一次運動野の上肢領域(主に手指領域)梗塞作成前の上肢動作をVTRより詳細にし,(2)さらに梗塞作成後の麻痺の状態ならびに機能回復過程について,上肢運動障害ならびに代償動作を比較,検討した.(1)上肢機能評価は前年度より用いている手指機能パフォーマンス・テストを用いた.同時にサルの前方よりデジタルビデオで全身を撮影した.梗塞作成前のサルの把握動作は,浅い穴と深い穴の上肢の使い方に違いが観察された.浅い穴では,栂指とII指の間にリンゴを挟み口まで持っていき,穴が深くなるとIIからIV指を穴の中に差込み,屈曲してショベルのように掻き上げリンゴを持ち上げて口まで持っていく使い方であった.(2)脳梗塞作成後,対側上肢の手指屈曲伸展及び栂指内転運動に障害が認められた.なお,術後2日間は麻痺側上肢を使ってのテストは困難であった.術後3日目より,隣接する肘関節と肩関節に麻痺による運動障害を代償する動作が確認され,特に,肘の屈曲伸展と肩関節の外転運動を用いて手先を前後に動かす行為と,身体を傾けるまたは移動する行為が見られていた.術後1週間はこの代償動作を多用しており,梗塞作成前に行っていたパターンを用いて行うことは困難であった.その後,運動障害からの機能回復が見られると.エサを取る所要時間の減少とともに代償動作の頻度も減少していた.術後1ケ月でのパフォーマンスの所要時間は術前とほぼ変わらない成績であった.また,代償動作も最も深い穴を除いて,ほとんどみられなくなっていた.約1年後のテストの所要時間の成績も術前と変わらず,また,代償動作も全ての穴のテストで見られなくなっていた.今回の結果より,代償動作は障害後に見られるが,麻痺の回復とともにその使用頻度は減少することが確認された.また,1ヵ月後の成績は1年後でも変わらないことが確認された.
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