私たちは既に深部体温が約2℃上昇する47℃、3分の高温浴では、血小板の活性化(形態変化とβ-トロンボグロブリン、血小板第4因子の増加)とプラスミノーゲン活性化因子インヒビターI(PAI-I)の-過性の上昇による線溶系の抑制化が起こり、血栓性疾患発症の引き金になる危険性を指摘した。本研究では、脳血管障害患者のリハビリテーションに用いられる深部体温を約1℃上昇させるくらいの軽度の温熱刺激の影響を検討した。 1。深部体温を約1℃上昇させるくらいの軽度の温熱刺激のin vivoでの血小板及び凝固・線溶系に及ぼす影響。動脈硬化や高血圧のない22〜43歳の健康成人男性10例を対象として40℃、20分浴と42℃、10分浴の影響を比較検討した。温浴開始前、温浴終了時、温浴開始60分後に血液検査を行った。深部体温は40℃、20分浴で約0.7℃、42℃、10分浴で約0.9℃上昇した。どちらの温浴法でも、血小板の活性化を示唆するβ-トロンボグロブリンや血小板第4因子の増加は見られなかった。線溶機能を促進する組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)の軽度の上昇傾向が認められたが、有意な変化ではなかった。逆に、線溶機能を抑制するPAI-Iは40℃、20分浴でやや低下傾向、42℃、10分浴でやや増加傾向を示したが、これらの変化も有意ではなかった。 2。In vitroで培養血管内皮細胞に及ぼす温熱刺激の影響。ヒト臍帯静脈内皮細胞をin vitroで培養し、温熱刺激を与え、内皮細胞からのtPA、PAI-Iの放出を検討した。温熱刺激により、培養液中にPAI-Iの増加が認められたが、tPAの増加は見られなかった。 これらの成績から、40〜42℃の水温による水治療は血小板並びに凝固・線溶系には影響を与えないので安全に遂行できると考えられる。しかし、血栓症の予防効果を示唆するような積極的な所見は得られなかった。
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