本年(平成14年)度は、F-スキャン(足底圧分布計測装置、ニッタ社製)による歩行の計測を追加し、昨年度までのシート型歩行分析装置(ゲートスキャン)による歩行の計測結果とあわせて、パーキンソン病(PD)患者の異常歩行に対する靴の踵補高による効果について解析した。また、F-スキャンでは圧センサーを靴内底に挿入することから、計測時に歪みを生じる可能性を考慮して、インソールとして踵補高することに加えて、PD患者では靴外底に補高を加えて計測した。踵補高は楔状の補高調節板10、15、20mmの3タイプを作製して装着し、補高しない場合(0mm)と比較した。 対象者は、自立歩行可能なPD患者(ヤールらのステージIII〜IV)で、計測について説明し同意、協力の得られた延べ25名(平均年齢約66歳)である。また、健常対照として、同様に説明し同意と協力の得られた延べ16名(平均年齢約62歳)において靴の踵補高の有無で計測を行なった。 (1)PD患者では、歩行周期時間、一歩時間は有意に短縮し、歩調の増加と歩行速度の増大する傾向を認めた。 (2)足圧中心の移動距離はPD患者群、対照群ともに有意な増加を認めた。 (3)踵接地からつま先離地に至る足底圧ピークの移行時間は、PD患者群で有意に短縮した。 (4)自覚的な改善を認めたもので、日常的に着用している靴の踵と対比すると1.0cm前後の補高追加が有用であった。 (5)Fスキャンによる計測では、靴内底での補高、外底での補高とも足底圧分布の計測は可能であった。踵部の圧ピークはPD患者群、対照群ともに踵補高により有意に減少した。前足部の圧ピークは対照群では増大傾向を認めたが、PD患者群では靴外底に補高した場合、予想に反して減少傾向を示した。 以上より、1.0〜2.0cmの踵補高は、直接的な足底圧ピークを除いて健常者では歩行に影響を及ぼさないが、PD患者群では影響が明らかで、歩行の改善に寄与すると考えられた。
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