研究概要 |
電気刺激や磁気刺激は廃用性筋萎縮を予防あるいは軽減する目的で理学療法の現場では臨床的に広く用いられている。近年,電気刺激や磁気刺激が末梢神経の再生を促進するという報告が見られる一方で,無効である,あるいはむしろ有害であるという報告も見られ,神経再生に対するこれらの効果に関しては一定の見解が得られていない。そこで今回,マウスの坐骨神経に損傷を与え,経皮的に電気刺激や磁気刺激を与えて,再生神経に対する影響を形態学的に光学顕微鏡と電子顕微鏡で観察した。坐骨神経を切断し,2日後に筋収縮を引き起こす強さの電気刺激や磁気刺激を与えると,再生神経のうちでも,その先端をなす成長円錐だけに障害像が観察された。電気刺激による障害は軽度で,24時間後にはほとんどの再生神経は回復していたのに対し,磁気刺激による成長円錐の障害は高度で,回復にも長時間を要した。また,坐骨神経を挫滅して3日目から毎日電気刺激や,ごくわずかの筋収縮を引き起こす程度の磁気刺激を与え,再有髄化された再生神経の数と直径を指標にして観察すると,電気刺激や弱い磁気刺激群では,再生神経の伸長と成熟は促進される傾向が見られたものの,再生神経の数はむしろ減少しているように見えた。 成長円錐は再生神経の伸長や進路決定の上で重要な役割を演じており,電気刺激や磁気刺激による障害は神経再生にとって重大な問題である。一方,再生神経の伸長速度を速めたり,成熟を促進する効果も期待できる。今後,電気刺激や磁気刺激の方法や強さを変えて観察を続け,より安全で有効な方法を確立してゆく予定である。
|