研究概要 |
昨年度,聴覚刺激のみによる項目選択実験を行い,最高6割程度の正解率を得た.本年度は,まず項目の提示方法等を検討し,正解率を上げることを目指した.具体的には提示時間を揃えるために5種類の母音を刺激として用いたが,十分な成果が得られなかった.そこで,視覚刺激の補助として聴覚刺激を与えることで視覚刺激のみを与える場合よりも正解率を上げられるかどうかを調べた. 視覚刺激のみ,、聴覚刺激のみ,視覚刺激と聴覚刺激の両方を与える選択実験を行った.脳波のサンプリング間隔は2ms,刺激の提示間隔は1秒,1回の実験で刺激を提示する回数は125回とした.脳波に対して,中心周波数3Hzのバンドパスフィルタ,アベレージング,平均波形減算処理,窓関数による波形の切り出し処理を施して得られる波形から,正の最大のピーク値と面積を用いてP300を判定した. 実験の結果,視覚刺激と聴覚刺激の両方を同時に与えた場合の正解率は,聴覚刺激のみを与えた場合よりもよかったが,視覚刺激のみを与えた場合よりも劣っていた.脳波に上記の処理を施した波形を分析した結果,聴覚刺激の方が視覚刺激に比べてP300の潜時のばらつきが大きいことがわかった.視覚刺激における潜時は400ms〜500msであったが,聴覚刺激における潜時は300ms〜800msであった.これが,両方の刺激を同時に与えた場合にP300の判定が困難になっている原因である. 現時点では,聴覚刺激における潜時のパターンが掴めていない.意志伝達補助装置に聴覚刺激を利用するためには,刺激の種類や与え方を様々に変えて実験を行い,潜時パターンを発見し,P300判定アルゴリズムを改良する必要がある.
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