研究概要 |
平成12,13年度の2年間における研究では、Wistar系成熟ラットの胸髄(Th7〜9)を半切し、(1)運動機能の回復経過を12週まで観察、(2)脊髄組織の修復機転を組織学的、免疫組織化学的及び電子顕微鏡的に検索、(3)セロトニン(5-HT)含有神経の再生過程を免疫組織化学的に検索、(4)軸索逆行性トレーサー(WGA-HRP)を用いて脊髄交叉性神経線維の再生過程を検索、(5)脊髄損傷部周囲の星状膠細胞の反応、(6)損傷修復部における脳血管関門(BBB)の変化、などについて検索した。 本研究の成果としては、 (1)脊髄半切ラットの下肢運動機能は、能術後1週間頃から運動機能の回復が見られ、3週間でほぼ正常と同様な歩行が可能となった。 (2)損傷部脊髄組織は、(a)炎症細胞浸潤、壊死組織の排除、(b)周囲組織星状膠細胞の肥大、増殖、細胞突起の延長、(c)星状膠細胞の細胞突起による損傷部軟化巣を取り囲む瘢痕組織、などの所見が見られた。 (3)脊髄損傷部瘢痕性修復後には肥大した星状膠細胞及び細胞突起の密な配列が見られるが、この部位の毛細血管では、周囲に星状膠細胞の細胞突起が見られず、脳血管関門(BBB)の崩壊が示唆された。 (4)腰髄における5-HT含有神経の検索結果、(a)損傷側下位における5-HT含有神経は術後1週間で消失した。(b)術後2週で再び出現し、その後徐々に増加する。 (5)WGA-HRP注入による軸索再生の検索結果、(a)術後5日では、損傷側下位(腰髄)に注入したWGA-HRPは、反対側の縫線核細胞に少量集積した。(b)術後5〜6週では、同様の実験で5日よりも明らかに多量のWGA-HRPが反対側の縫線核に集積した。これらの結果は、切断された脊髄線維の軸索は変性、消失するが、その後、健常側から軸索の発芽(sprouting)が生じ、交叉性に損傷側に進入して代償性に作用することが示唆された。
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