研究概要 |
拘縮発生時の筋線維と筋内膜コラーゲン線維網の形態変化、ならびに筋組織内のヒアルロン酸含有量を検索するとともに拘縮に対する伸張運動の影響も検索した.Wistar系雄ラット124匹を実験群(n=74)と対照群(n=50)に分け,実験群は,足関節を最大底屈位で1週間(n=10),2週間(n=10),4週間(n=34),8週間(n=10),12週間(n=10)ギプス固定した.また,4週間固定した群の一部は,固定後に麻酔下で1日30分間(週6回),述べ3週間ヒラメ筋を伸張し(伸張群、n=12),その比較対照には,固定後に同期間、麻酔のみをかけた(非伸張群、n=12).実験終了後は、麻酔下で足関節背屈角度を測定し、ヒラメ筋を摘出後,検索材料に供した。すなわち、一部のヒラメ筋はその凍結横断切片を光学顕微鏡で検鏡し、一部は3%グルタールで組織固定後、その縦断切片を光学・透過電子顕微鏡で検鏡するとともに、筋内膜コラーゲン線維網を走査電子顕微鏡で検鏡した.また、一部のヒラメ筋は湿重量当たり50倍量の0.01Mリン酸緩衝液中でホモジナイズし、遠心分離後の上清液内のヒアルロン酸含有量をサンドイッチバインディング法にて測定した。結果、足関節背屈角度は,対照群に比べ固定1週で17%,2週で29%,4週で57%,8週で68%,12週で72%減少した.筋節長は,対照群に比べ固定1週で有意に短縮し,これはすべての固定期間で同様であった。一方,筋内膜コラーゲン線維網の形態は,固定1,2週では多くのコラーゲン細線維が筋線維の長軸方向に対して縦走し,対照群と同様であったが、固定4週以降は横走するコラーゲン細線維が増加した.さらに、ヒアルロン酸含有量は対照群に比べ固定1週で有意に増加し、これは固定期間の延長に伴って経時的に増加した。次に、伸張群と非伸張群を比較すると筋節長は伸張群が有意に長く,筋萎縮の程度も伸張群が軽度であり,筋内膜コラーゲン線維網の形態変化も伸張群で著しく改善していた.以上の結果から,1,2週間の固定で起こる拘縮は,筋線維自体の伸張性低下に加え、筋組織内におけるヒアルロン酸の蓄積などが影響していると考えられ、4週間以上の固定になるとコラーゲン線維網の形態も変化し、拘縮はコラーゲン線維の滑動性低下の影響が加わることでさらに進行すると推察された.また、コラーゲン線維の滑動性低下にもヒアルロン酸の関与が窺われ、今後さらに検討する必要があると思われる。一方,4週間のギプス固定によって生じた筋線維やコラーゲン線維網の形態変化は,自然回復の場合より伸張運動を行うほうが改善しており、伸張運動は拘縮に対して有効な治療手段であることが示唆された。
|