研究概要 |
昨年度までに,ラットヒラメ筋の不動化による筋線維と筋内膜コラーゲン線維網の形態変化,ならびに筋組織内におけるヒアルロン酸含有量の変化が明らかとなった.しかし,筋組織内でのヒアルロン酸の変化がどの部位で起こっているのかは定かではなく,また,どの分子種のコラーゲンが変化しているのかも明らかではなかった.そこで,昨年度までに作製した検索材料を基に免疫組織化学的手法を用いて上記の点を検討した.加えて,不動による筋粘弾性の変化についても生理学的手法を用いて検討した. 1.ヒアルロン酸の変化:凍結した筋組織の横断切片を用い,ヒアルロン酸結合タンパクを一次抗体とした免疫組織化学染色を実施した.その結果,不動後の筋組織には筋内膜に濃染像を認め,ヒアルロン酸含有量の増加は筋内膜で生じていると考えられた. 2.コラーゲン分子種の変化:凍結横断切片をvan-Gieson染色した結果,不動後の筋組織には筋周膜や筋内膜に結合組織の増殖が認められ,線維化の進行が窺われた.そこで,この結合組織の増殖がどのタイプのコラーゲンによるものかを検索するため,I型,III型コラーゲン抗体に対する免疫組織化学染色を実施した.その結果,不動後の筋組織においてはI型コラーゲンの増加は認められなかったが,III型コラーゲンは増加していた. 3.筋粘弾性の変化:摘出筋を筋長の7%の長さまで長軸方向へ伸長し,張力トランスジューサによって得られる張力曲線から,筋伸長時の動的相,すなわちramp stretchの際の他動張力と,伸長位を維持しhold stretchさせた際の5秒後の他動張力を測定した.不動後,ならびにControlともにramp stretchに伴い他動張力は増加し,ramp stretchに続くhold stretchにおいて張力は減衰し,ほぼ一定の張力を示した.そして,ramp stretch時,hold stretch時ともにその他動張力はControlより不動後が有意に増加していた. holds stretch時の他動張力は骨格筋の弾性力を直接反映し,ramp stretch時の他動張力は速度に依存していることから骨格筋の弾性力に粘性力が加味されていると考えられる.すなわち,不動後の骨格筋は弾性力の減少と粘性力の増加が起こり,他動的な伸長に対して抵抗性が増加していると考えられる.そして,その要因にはこれまで示してきた筋線維と筋内膜コラーゲン線維網の形態変化,ならびに筋組織内のヒアルロン酸の増加が関与していることは明らかである.また,筋組織の線維化に伴ってIII型コラーゲンが増加しており,これも骨格筋の弾性力に影響しているのではないかと推察された.
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