研究概要 |
研究1:拘縮の病態解明に関する実験的研究 関節の不動化は骨格筋の弾性低下を招き,これが原因で発生する関節可動域制限を拘縮という.しかし,拘縮の発生メカニズムについては未だ明らかにされていない点が多い.そこで,本研究ではラットヒラメ筋を弛緩位で1,2,4,8,12週間不動化した後の 1)足関節の可動性,2)ヒラメ筋を伸張した際の他動張力,3)ヒラメ筋の筋節長,筋内膜コラーゲン線維網の形態,ヒアルロン酸の変化について検索した.その結果,足関節の可動性は不動期間の延長に伴って減少し,不動後のヒラメ筋の他動張力は増加していた.また,筋節長は不動1週後に短縮を認め,その後不動期間を延長しても同様に短縮していた.一方,筋内膜を構成するコラーゲン線維の走行は,不動1,2週後はControlと同様で筋線維の長軸方向に対して縦走していたが,不動4週後以降は横走するコラーゲン線維が増加していた.さらに,ヒアルロン酸含有量は不動1週後に増加を認めたが,その後は不動期間を延長しても横這いの推移であり,組織化学的検索では,不動後のヒアルロン酸の増加は主に筋内膜で生じていることが確認された.以上の結果から,不動後は骨格筋の弾性低下によって拘縮が発生することは明らかで,これは不動期間の延長に伴って進行するといえる.そして,拘縮の発生メカニズムとして,初期の段階は筋線維の短縮が直接的に影響し,その後,コラーゲン線維網の構築変化が起こり,進行すると考えられる.また,筋組織内におけるヒアルロン酸の蓄積も骨格筋の弾性低下に影響していると思われるが,拘縮の進行との相関関係はないことから,その発生メカニズムに対する関与は本研究では明らかにできず,今後検討を要すると思われる. 研究2:拘縮の治療法解明に関する実験的研究 骨格筋の持続伸張法は,拘縮の予防・治療法として日常の臨床で広く実施されている.しかし,その効果については科学的に証明されていない.そこで,マウスの実験モデルを用いて拘縮を予防するために必要な実施時間の検討を行った.その結果,拘縮の予防は1日10分間の実施時間では困難であったが,20分,30分の実施時間では可能で,持続伸張法の効果が認められた.しかし,30分の実施時間でも拘縮の発生を完全に予防することは困難であり,今後は実施時間の再検討などが必要と思われた.次に,4週間不動化した後にラットヒラメ筋を1日30分間持続的に伸張した場合と(伸張群)と自然回復させた場合(非伸張群)の廃用性筋萎縮の回復状況を検討した.その結果,伸張群と非伸張群の筋線維直径を比較すると不動を終了した1週目ではType I線維のみに,3週目ではType I・II線維の両方に有意差を認め,伸張群のそれが大きかった.したがって,持続伸張法は拘縮の発生によって起こる廃用性筋萎縮の治療に有効であることが示唆された.
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