研究概要 |
脊髄損傷による末梢自律神経障害は、発汗異常や末梢血流障害による体温調節障害、血圧調節障害による起立性低血圧、自律神経過反射などを生じ、臨床治療上問題とる。われわれは、末梢交感神経の起序の解明および脊髄損傷が交感神経に与える影響について検討するため、脊髄の切断による脊髄損傷モデルを作成し、末梢神経から微小神経電図法を用いてSSAおよびMSAの交感神経活動電位を捉え活動電位の差異を比較検討した。 脊髄損傷モデルを作成前の安静時に得られた活動電位において、MSAは、心電図波形のRに先行する心拍同期性の規則的な自発活動電位を認めた。しかし、SSAはMSAで認められる自発電位は認められなかった。頸髄切断による脊髄損傷モデルを用いた上肢末梢交感神経の活動電位において、MSA,SSA共に、末梢から中枢へ切断部位を移行させるにつれて活動電位の積分値変化は徐々に低下し、C6/7レベルの切断でMSA,SSAの活動電位は共に消失した。腰髄切断による脊髄損傷モデルを用いた下肢末梢交感神経の活動電位においても同様に、末梢から中枢へ切断部位を移行させるにつれて活動電位の積分値変化は徐々に低下し、T8/9レベルの切断でMSA,SSA共の活動電位は共に消失した。上肢および下肢末梢交感神経活動電位の積分値変化より、上肢末梢交感神経の主たる支配中枢はT2/3からC7/T1の3椎間に、また下肢末梢交感神経の主たる支配中枢はT10/11からT8/9の3椎間にあると推察した。 また、MSAの自発活動電位は心電図のR波と密接な関係を認めたが頸髄切断時に、心電図のQRS波が消失した時点でもMSAの活動電位の存在を認めた。この事よりMSAは心拍と協調し生体のホメオスタシスに重要な役割を果たしていると考えられ、心拍変動等のバイタルリズムだけでなく、MSAにおいても異なる非常に複雑な中枢調節機構の存在を示唆するものと考える。
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