【目的】脊髄不全損傷は痛みやしびれの訴えが続く場合が多く生活を阻害する要因となる。我々は髄節神経レベルの中でも自律神経の機能が維持されることでこれらの問題が改善されると考え、脊髄不全損傷モデルに治療的電気刺激(TES)を実施し、末梢筋交感神経活動(MSA)に対するTESの影響を調べる。【対象・方法】Wistar系ラット雄18匹。麻酔後、第9胸椎椎弓を切除し、10g/mm^2の強度で10分間の圧迫により脊髄不全損傷モデルを作製し、TESを右腓腹筋に行った。微小神経電図法を用い左右の坐骨神経から圧迫後MSAの電位を記録し経時的に比較検討した。【結果】実験群の右側では圧迫後1週と8週、3週と8週の間で有意に8週後のMSAの積分値に増加を認めた。また実験群とコントロール群の比較においては圧迫後4週以後で有意に実験群のMSAの積分値が大きかった。【考察】脊髄圧迫後のラットにおいてTES実験群のTES側(右側)で有意にMSAの回復が認められたことは、電気刺激に伴う筋収縮により筋感覚が増加することが1つの要因と考えられる。節後交感神経線維はこの筋感覚の感度を調節するために交感神経節から後根神経節に連絡している。TESによって末梢神経の連絡により交感神経の自発活動が促されていると考えられる。交感神経節前線維においては中枢との連絡が断たれても、血管系支配の交感神経節前線維の自発活動は数週間で回復してくるといわれている。今回の結果はこの回復がTESより促進されたと推察する。脊髄切断後には運動ニューロンにノルアドレナリンに対する除神経性過敏が出現するとされている。このことは筋のspasticityの出現に関与し、TESによる筋収縮は筋感覚の増感、そして、感度調節による交感神経活動の促通と連鎖して末梢交感神経の機能維持につながるものと考える。Donovanは脊髄損傷の異常疼痛を髄節神経性、脊髄性、筋緊張性などに分類している今回のTESの結果はこれらの異常感覚に効果を発揮できる可能性があると推察する。
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