研究概要 |
我々は対麻痺歩行機能再建のためのスライド式内側単股継手を開発してきた.さらにこの臨床的価値を高めるため,平成12年度は股関節自由度を増やした股継手及び起立補助機構を備えた長下肢装具の開発・検討を行った.平成13年度にはこれらの内側股継手システムの効果を脊髄損傷高位別に検討した.対象は2001年1月までに当院入院または外来で内側単股継手付長下肢装具を作製した成人24名で,性別は男性20名,女性4名,平均年齢は成人37.3歳(18〜68歳)であった.1)頸髄損傷例5例の残存機能髄節はC6:2名,C7:3名であった.訓練経過中,Frankel DとなったC7の1名は短下肢装具に変更でき,現在車椅子と装具歩行の併用となった.他の4名は日常生活では車椅子を使用しており,このうち2名は平行棒内の介助立位・歩行訓練を行っている.2)胸髄損傷例16名の残存機能髄節はTh5〜Th11であった.Th9とTh11でFrankel Cである各1例は長下肢装具と短下肢装具に変更でき,後者では実生活で装具歩行と車椅子移動を併用している.Th11でFrankel Bの1例は経過中Dに変化し独歩可能となった.他の13名中8名は日常生活では車椅子移動であるが,訓練室内をロフストランド杖で歩行可能となり訓練を継続している.3)腰髄損傷例3名の残存機能髄節はL1が2名,L2が1であった.L1でBからDに変化した1名が長下肢装具と短下肢装具で歩行可能となった.他の2名は訓練が中断された. 今回の検討で,頸髄損傷レベルでも平行棒内立位・歩行までは可能であることが明らかとなり,拘縮予防,褥瘡予防,心理的効果など臨床的意義が認められ,患者自身の満足度も高かった.胸髄レベルでは訓練室内での立位・歩行が可能であった.その際,起立補助機構,股継手回旋付与機構は,より負担の少ない効率よい立位・歩行達成に有用と思われた.腰髄レベルは最も適応があると考えられるが,今回は不全例が中心であったため最終的に股継手が不要になり,完全麻痺例での検討が課題として残った.損傷高位に関わらず不全対麻痺では早期からの立位歩行導入に極めて有用であり,歩行を通しての実用的筋力増強も達成でき,その後の歩行機能の回復に有利な環境を提供できると思われた.
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