2000年8月から2001年1月の間に分娩予定であったウシ32頭について、原則として、最終交配後90日目から270日目までは30日間隔で、それ以降は7日間隔で、分娩直前まで血液採取を行い、血漿中estrone sulfate(E1S)とprogesterone(P4)濃度を測定した。分娩時には、分娩状況、新生子体重、新生子活力、胎盤排出までの時間および胎盤重量などの観察を行った。種雄牛と母牛の品種別の頭数は、黒毛×黒毛が2頭、黒毛×無角和種(黒毛胚移植)が6頭、黒毛×F1(黒毛×ホルスタイン種)が3頭、黒毛×F1X(F1×黒毛)が3頭、黒毛×(日本短角×黒毛)が1頭、黒毛×(無角和種×黒毛)が2頭、黒毛×ホル種が9頭、そして、ホル種×ホル種が6頭であった。血漿中E1S濃度は妊娠の経過に伴い上昇し、特に210日目から270日目にかけて顕著な上昇を示した。しかし、分娩前2週間以降においては上昇は顕著ではなかった。種雄牛と母牛の組み合わせが異なるグループ間で妊娠期の血漿中E1S濃度には明らかな差は認められなかった。妊娠末期の血漿中E1S濃度と胎子娩出後胎盤排出までの時間との間には負の相関が認められ、E1S濃度の低い例では胎盤排出までの時間が長いという傾向がみられた。分娩前兆が不明瞭なまま胎子を娩出し、胎盤停滞を起こした例と胎子仮死の例では、妊娠末期のE1S濃度が、正常分娩例に比べ低かった。妊娠期のE1S値と新生子体重および胎盤重量との間には明らかな相関はみられなかった。以上のように、妊娠期の胎盤機能と新生子の健康および胎盤排出時間との間に一定の関係があることが示唆された。
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