今年度は、物体の非弾性的な衝突過程の数理的な記述に注力した。 まず「表面」存在する物体を古典的な結合振動子として記述し、それらがマクロに衝突をする過程を、現象論に頼らず、原子スケールから記述できるモデルを構成した。このモデルの範囲では、系のエネルギーは常に保存し、マクロな衝突による散逸過程は、結晶内の(並進モード以外への)各振動モードへのエネルギーの分配として解釈できる。このような状況設定にもとに、理論的な解析とコンピューターシミュレーションにより以下の知見が得られた。 (1)原子間相互作用が調和的であるような単純な系においてエネルギー散逸を理論的に評価した。この場合には、散逸エネルギーと物体のエネルギーとの比は、物体の初期エネルギーに依らず一定(現象論的「はねかえり係数」は一定)となる。 (2)調和的な弾性体の衝突による散逸は、主として物体が他の物体と衝突する瞬間、および物体から離脱する瞬間に表面で生成されるフォノンによって生じること、および物体が接している状態では従来仮定されてきた「準静的つりあい」がよく成立していることを、ミクロなモデルによって確認した。 (3)非線形性の強い相互作用の場合には、衝突によるエネルギー散逸の割合は、物体の運動エネルギー(速度)とともに増大する(「はねかえり係数」の減少)するが、衝突速度が音速の1/10程度以上ではむしろエネルギー散逸が現象するような、逆転が生じる場合のあることが見いだされた。
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