補助金が交付された期間中に行った研究によって以下の成果を得た。 (1)非平衡定常状態間の遷移について、拡張された熱力学第2法則が成り立つことを、具体的なモデルを用いて示した。その結果として、定常状態に拡張されたエントロピーがミクロな分布関数に対するシャノンエントロピーと一致することがわかった。(論文として出版。) (2)ハミルトンカオス系で理論的に予想されていた不可逆情報損失を数値的に測定し、理論の正しさを確認した。(論文として投稿中。) (3)散逸多体系で外側から刺激を加えたときに空間構造が発生する。その構造を維持するための代償を定量化するエントロピー生成を定義した。この量は、熱力学的な非平衡定常状態で標準的に定義されるエントロピー生成に関連して提出された「揺らぎの定理」として知られている関係式をみたす。また、この物理量と力学系的な情報損失率との関係を示唆する結果を得た。(論文として投稿中。) (4)非平衡定常状態における現象論としての熱力学を再考察し、非平衡定常状態に拡張された熱力学関数を測定量から計算する手続きを明らかにした。これにより、熱力学の拡張の仕方が具体的になり、熱力学関数が存在するための必要十分条件がわかった。非平衡性に由来する新しい力の存在や気液転移温度が非平衡性による変化を予言した。(論文として投稿中。)
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