研究概要 |
「持続する今」という心理学的時間は、瞬間としての個別な意思決定と、その意思決定を可能とする無限の前提とが共立する結果であると考えられる。工学的には、無限の前提の中での意思決定は、いわゆるフレーム問題として忌み嫌われる。しかし、無限の前提と共立する意思決定であるからこそ、意思決定は無根拠に自明であるとともに、いつでも劇的に変化しえる。無限の前提すなわち文脈が、瞬間(現在)の背景として共立するために、「現在」という瞬間は厚みを有し、持続する今を構成しえる。この限りで、今は、文脈を構成するさまざまな過去と共存し、その結果、「今」は時間の中で常に有意味な今となる。既視感のような現在完了を過去完了と思い違える現象を含めて、文脈としての過去の共存が理解の鍵となる。以上の基本理念に対し、本研究では、以下を実現した。 1 瞬間と共存する過去の大きさが、それ自体文脈依存的であるような系のモデルを構築し、持続を有する探索モデルの挙動を解析した。その結果安定性と変化を共存した探索系を得た(論文Chaos,Solitons & Fractalsなど)。 2 文脈を規定するための全体概念が、過去のすべてを見渡すわけではないとき、全称量化子がどう定義できるか検討し、そうな部分的全称量化子を用いた束の時間発展をモデル化し、これを意味論として用いたシステムを解析した(論文Science of Interfaceなど)。 3 瞬間と共存する過去が意識の背景に退くのではなく、陽に表れるとき記憶の使われ方がどう変化するか、逆さメガネを用いた迷路探索実験を行い、その場合記憶の並列処理が陽に出現する結果を得た(論文:投稿中)。 4 瞬間なる現在と過去(文脈)との共立によって、目指すものとしての目的と,現在の試行の結果想定される目的といった2種類の目的概念が共立し、その不断の調整によって、意識の陽に表れる目的概念が維持され、かつ変化すると考えられる。われわれは、二つの目的を、全体を見渡せない探索者と、全体を見て指示を与える指示者とに、実験において分節し、両者の論理的関係が迷路探索にどう関わるかを調べた。その結果、両者の論理的齟齬が解消されるのではなく、むしろある程度増大していくとき、複雑な迷路は速やかに解かれる結果を得た(論文:準備中)。 以上のように、モデルと認知実験をあわせて行い、過去の共存という様相のもつ意味を構想し、認知的時間を変え得る実験の準備が整った。また、この問題から派生して、決定論的システムと選択の自由との関係を吟味し、徹底的な決定論的システムはフレーム問題に曝されながら個別の決定を実現し、その結果決定論的システムを実現しているからこそ、すでに選択の自由を内在させているという猫像を得た。ここから、現在、局所的視点を有した論理のモデル化について構想を開始した。
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