動物の潅流心および単離心筋細胞を用いた実験によって、腫瘍壊死因子(TNF)は心筋細胞に対して陰性変力作用と肥大を促進させる作用を持つことが明らかになっている。しかし、心不全や心肥大において、TNFがどのような機序によって産生されるかは未知である。そこで、心筋細胞と心臓線維芽細胞のTNF産生を比較検討したところ、リポポリサッカライド(LPS)、伸展刺激およびアンジオテンシンIIにより心臓線維芽細胞のTNF遺伝子発現が亢進し、心臓線維芽細胞から産生されるTNFの量は心筋細胞よりも明らかに高濃度であった。これらの結果から、機械的刺激およびレニンーアンジオテンシン系の活性化により、心臓線維芽細胞のTNF遺伝子発現が亢進し、TNFが産生されることが明らかになり、心不全や心肥大においては心臓線維芽細胞から産生されるTNFがパラクリン機序によって心筋細胞に作用する可能性が示された。つぎに、TNF産生にかかわる細胞内情報伝達系および転写因子を心臓線維芽細胞で検討した。アクチノマイシンD添加によるTNFαmRNAの発現減少はLPS刺激では変化しないことから、LPSはTNFαmRNAの安定性には関与しないと考えられた。ルシフェラーゼ法による転写活性の検討では、TNFαmRNA遺伝子のプロモーター活性はLPS、アンジオテンシンIIおよびエンドセリンI刺激により有意に増加した。また、LPS刺激によるTNFαmRNA発現の亢進は、プロテインキナーゼGの特異的拮抗薬で抑制されたが、MAPキナーゼ、プロテインキナーゼAあるいはプロテインキナーゼCの拮抗薬では抑制されなかった。以上より、TNFα遺伝子の発現はLPS、アンジオテンシンIIおよびエンドセリンIによって転写レベルで活性化され、LPSによる発現亢進にはプロテインキナーゼG依存性の細胞内情報伝達系が重要と考えられた。
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