TNF産生にかかわる細胞内情報伝達系および転写因子を心臓線維芽細胞で検討した。ルシフェラーゼ法による転写活性の検討では、TNFαmRNA遺伝子のプロモーター活性はLPS、アンジオテンシンIIおよびエンドセリンI刺激により有意に増加した。また、プロモーターの5'-欠失変異体を用いた解析から、LPSによる活性化にはプロモーターの-200から-100bpまでの領域が、また、アンジオテンシンIIによる活性化にはプロモーターの-100から-70bpまでの領域が関与していると考えられた。-200から-100bpの領域にはSp1/Egr1(-172)、Ets(-116)およびcJun(-106)結合部位が、-100から-70bpの領域にはNF-κB(-97)結合部位が含まれる。これらのSp1、Egr1、Ets、cJunおよびNF-κBの結合部位にそれぞれ変異を導入し、LPSおよびアンジオテンシンII刺激によるTNFαmRNA遺伝子のプロモーター活性を測定したところ、LPS刺激においてはSp1結合部位が、アンジオテンシンII刺激ではEtsおよびNF-κBの結合部位がプロモーターの活性化に重要であることが明らかになった。一方、LPS刺激によるTNFαmRNA発現の亢進は、プロテインキナーゼGの特異的拮抗薬で抑制されたが、MAPキナーゼ、プロテインキナーゼAあるいはプロテインキナーゼCの拮抗薬では抑制されなかった。また、LPS刺激によるTNFαmRNA発現の亢進は、Srcファミリーのチロシンキナーゼの特異的拮抗薬で抑制されたが、JAK-2の特異的拮抗薬では抑制されなかった。以上より、LPSとアンジオテンシンIIとではTNFαmRNA遺伝子のプロモーターの活性化の機序が異なると考えられた。このことは、LPS刺激を主体とする感染症とレニン-アンジオテンシン系の活性化を主体とする心不全あるいは心肥大においては、心臓におけるTNF産生も異なると推察される。
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