心血管系特異的な遺伝子の発現調節領域に存在するM-CAT配列には、TEF-1ファミリー転写因子が結合し、その発現に関与することが示唆されており、一方TEF-1遺伝子にホモの変異を持つマウスは、心筋の低形成により胎生致死となること等から、TEF-1転写因子ファミリー蛋白は心血管系の発生分化や機能維持に重要な役割を果たすと考えられる。また最近、ショウジョウバエのTEF-1ホモログscalloped(Sd)は、介在因子vestigial(Vg)との直接結合を介して翅特異的な遺伝子の発現を調節することが明らかにされ、高等動物においてもVg様因子がTEF-1と相互作用することにより転写調節を行っている可能性が強く示唆された。従って本研究においては、TEF-1転写因子ファミリーと相互作用する新たな介在因子の構造、機能、分布と発現調節機構の解析を通し、心血管系の発生分化を明らかにする目的で、マウスのVg関連蛋白(mVRF)と思われる新たなcDNAをRACE法及びRTPCR法により単離した。その結果、mVRFは307アミノ酸残基からなり、最近クローニングされ258アミノ酸残基からなるヒトのVgホモログのTonduとは49%の相同性を示すが、両者ともVgとはSd結合領域においてのみ相同性を示すことが明らかになった。またHeLa細胞への一過性の導入実験から、TEF-1ファミリー蛋白結合配列を持つレポーター遺伝子の活性が顕著に抑制された。さらにノーザンブロット法による解析から、胎盤に強く、胎児、精巣に弱いmRNAの発現を認めた。以上の結果から、哺乳動物においてもTEF-1ファミリー転写因子と相互作用し、その機能を組織特異的に調節する新たなVg様蛋白が存在することが明らかになった。
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