研究概要 |
本研究では、脳の性分化を、特に脳内の芳香化と性ホルモン受容体という視点から性分化について概観し、性行動や攻撃行動の表出系中枢領域と考えられる扁桃体内側核、分界条床核、内側視索前野を外因性内分泌撹乱物質の脳内標的領域であると想定した。そしてDHT, T, E2の3種類の内因性の性ホルモンが同領域の性ホルモン受容体に与える影響を検討した結果、多量のE2投与は、扁桃体内側核、分界条床核、内側視索前野のEsRαに対する強いdown regulationの効果とAnRに対するある程度のup regulation効果を持ち、DHTはAnRに対する強いup regulation効果とEsRαに対するある程度のdown regulation効果を持つことが判明した.一方TはEsRαに対し強いdown regulation効果を示すが、投与量が脳内AROM活性量に比して多い場合には同時にAnRに対しても強いup regulation効果を示した。しかし投与量が少ない場合にはAnRに対するup regulation効果は弱いものにとどまった.脳内性ホルモン受容体の発現制御が密接に脳の性分化の方向づけと関わることは容易に想像されるが、生殖系組織でエストロゲン様効果が報告されるノニルフェノールとオクチルフェノールについて同脳領域のEsRα抑制効果を免疫組織化学的に検討した結果、中枢性にもエストロゲン類似効果を発揮することが示された。本研究成果の重要な点は、ある種の"環境ホルモン"が実際に脳の性ホルモン受容体の制御を介し中枢性に生殖機能や攻撃行動に影響を及ぼす可能性を示した点と脳内でのエストロゲン作用やアンドロゲン作用のアッセイ系確立へ大きな扉を開いたという点と、詳細な報告は控えるが、性分化のメカニズムの解明と外因性内分泌撹乱物質の脳内作用経路を探るうえで重要な新たにEsRβの脳内発現分布を明らかにした点である。この分野の今後の課題は、EsRβの脳内発現分布や機能を踏まえて脳の性分化メカニズムの解明し、EsRα、EsRβ,AnRの制御を利用した脳における外因性物質の性ホルモン類似作用のアッセイ系を確立し、これにより外因性物質の脳内性分化干渉強度の測定を可能にすることであろうと思われる。
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